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東京高等裁判所 平成3年(ネ)28号 判決 1995年12月20日

東京都渋谷区代々木一丁目三八番一八号

控訴人

株式会社 育英

代表者代表取締役

古谷長彦

訴訟代理人弁護士

飯塚信夫

東京都新宿区百人町二丁目四番一号

被控訴人

株式会社 現役会

代表者代表取締役

秋岡勲

訴訟代理人弁護士

高見澤重昭

主文

本件控訴及び当審における追加的予備的請求に基づき、原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人に対し、金八五二万四〇七〇円及びこれに対する昭和六二年九月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、金員支払請求部分を取り消す。

2  (主位的、予備的請求)

被控訴人は、控訴人に対し、金一八一六万七六四三円及びこれに対する昭和六二年九月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  (当審における追加的予備的請求)

被控訴人は、控訴人に対し、金一〇九〇万五〇〇円及びこれに対する昭和六二年九月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴及び当審における予備的追加的請求をいずれも棄却する。

2  当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。

第二  争いのない事実

次のとおり訂正、付加するほかは、原判決三頁一一行目から六頁三行目までを引用する。

一  同五頁六行目の「成約分の」から同七行目末尾までを、「毎月末日締切り翌月二五日支払いの約で成約分の教材代金の六五パーセントを支払うというものであった。教材代金は、いずれも通信添削指導、公開模擬試験、個別面談、入試ジャーナル新聞配布、精神衛生カウンセリングのアフターケア付きで、英語、数学、国語、微分・積分・確率・統計の四教科全部の場合六五万円、英語、数学、国語のうち二教科に微分・積分・確率・統計を加えた三教科の場合五八万五〇〇〇円、英語、数学、国語の三教科の場合五二万円、英語、数学、国語のうち一教科に微分・積分・確率・統計を加えた二教科の場合四四万円、英語、数学、国語のうち二教科の場合三九万五〇〇〇円、英語、数学、国語のうち一教科の場合二五万円、微分・積分・確率・統計の場合二〇万円であった。」と改める。

二  同六頁一行目の、「原告は、」の次に、「原判決別表記載の契約者(ただし、31の「高田昭子」は「高田照子」の誤記であるので、訂正する。)に対し、」を加える。

第三  争点

一  控訴人の主張

1  主位的請求(不法行為に基づく損害賠償請求)

被控訴人は、被控訴人社員と親族関係にある読売新聞社会部記者植木隆司に、控訴人の教材に五四〇箇所の誤りがあるという虚偽の情報を提供し、読売新聞は、十分な調査をせずに、被控訴人と新聞社との右特別の関係により、そのまま五四〇箇所の誤りがあるとの記事(以下「本件新聞記事」という。)を掲載した。

被控訴人は、自社教材の販路を得るため、本件新聞記事を利用して、本件教材は欠陥教材であり、支払代金の返還請求に力を貸すなどと述べて、原判決別表記載の契約者に対し、本件教材の購入契約の解約の申込みをさせた。

本件教材には瑕疵はないが、控訴人としては、本件新聞記事が新聞記事として掲載され、すでに被控訴人側からの教材を売り込まれてしまった以上、如何に弁明し説明しても、契約者に二重の支払いを強いることにもなり、契約者に解約を思い止まらせることは期待できないので、教材に瑕疵のないことを立証するよりも、解約に応じて他に喧伝されるのを止めるようにするため、やむなく契約者からの解約の申込みに応じたのである。

控訴人の右煽り行為は、不法行為に該当し、被控訴人は、右解約により、原判決別表記載のとおり、代金の返還として、契約者に直接あるいは立替払業者である大信販に対し、合計一八一六万七六四三円の支払いを余儀なくされ、同額の損害を被った。

よって、控訴人は、被控訴人に対し、主位的に、民法七〇九条に基づき、損害賠償として、右金員の支払いを求める。

2  予備的請求(不正競争防止法に基づく損害賠償請求)

被控訴人は、前項記載の行為により、控訴人の教材に五四〇箇所の誤りがあるという虚偽の事実を告知・流布し、被控訴人と競争関係にある控訴人の営業上の信用を害し、控訴人は、前項記載のとおりの営業上の損害を被った。

右の行為は、不正競争防止法(平成五年五月一九日法律第四七号による改正後のもの。以下同じ。)二条一項一一号に該当する。

よって、控訴人は、被控訴人に対し、予備的に、不正競争防止法四条に基づき、損害賠償として、前項記載の金員の支払いを求める。

3  当審における追加的予備的請求(不当利得返還請求)

控訴人は、被控訴人との間の本件教材の販売委託契約に基づき、被控訴人に対し、教材が販売されたとき、その販売額の六五%を販売手数料として支払うこととなっており、控訴人は、被控訴人に対し、原判決別表記載の契約者に対する販売手数料として、本判決別表記載のとおり、合計一〇九〇万五〇〇円を支払ったが、前記1の被控訴人の行為あるいは被控訴人営業員のオーバートークを原因として、右契約者との本件教材の購入契約は解約された。

被控訴人は、同販売委託契約上の義務を誠実に履行すべき義務があり、被控訴人の行為によって右契約者との本件教材の購入契約が解約となった以上、被控訴人には、受領した右販売手数料を利得する法律上の原因がなく、これにより控訴人は支払った右販売手数料相当額の損失を被った。

よって、控訴人は、被控訴人に対し、予備的に、民法七〇三条、七〇四条に基づき、悪意の受益者に対する不当利得の返還として、右金員の支払いを求める。

二  被控訴人の主張

1  不法行為に基づく損害賠償請求について

被控訴人は、読売新聞に虚偽の事実を書かせたこともないし、本件新聞記事を利用して顧客に対し、本件教材の購入契約を解除させたこともない。本件新聞記事は、新聞社が独自の判断と調査によって記事にしたものであって、被控訴人とは無関係である。また、本件教材の誤りの箇所が五四〇箇所でないとしても、誤りがあること自体は真実であり、この種の教材にとってそのような誤りがあること自体が重大な問題である。その意味から、本件新聞記事も虚偽であるとはいえないものである。

本件教材の購入契約の解約の原因は、個々の顧客において異なり、教材の瑕疵あるいはセールスマンのオーバートーク、子供が勉強しないなどであって(乙第七三ないし第八〇号証)、解約の原因の全てを被控訴人社員の煽り行為によるものとする控訴人の主張は誤りである。

仮に、被控訴人の社員が顧客に対し何らかの関与をなしたとしても、控訴人は、教材の瑕疵が問題化することを恐れて任意の判断に基づき解約処理したもので、被控訴人の社員の行為と本件教材の購入契約の解約との間に因果関係はない。

2  不正競争防止法に基づく損害賠償請求について

前項記載のとおり、虚偽の事実の流布はなく、また、本件教材の売買契約の解除と被控訴人の社員の行為との間に因果関係はない。

3  不当利得返還請求について

被控訴人が本件教材の販売を行うようになって間もなく、顧客から教材の誤りを指摘されたり、本件教材に伴って控訴人から顧客に提供されるサービスに関するクレームを受けることがあったため、被控訴人は、控訴人に対し、善処するよう求めた。しかしながら、控訴人は、責任ある措置を採らず、その後も、被控訴人は、顧客から多くの抗議を受け、その旨を控訴人に伝えても一向に事態は変わらなかった。そのため、被控訴人は、控訴人の本件教材では十分な販売活動ができないと判断し、顧客のために独自の商品を開発することにしたのである。

本件教材の購入契約が成立すれば、手数料請求権は有効に発生し、教材の瑕疵が原因で解約された場合、解約は手数料請求権の帰趨に影響を及ぼさず、被控訴人に手数料を返還する義務はない。

契約者出牛敏(原判決別表番号3、受講者同稔)及び渕野信男(同18)については、被控訴人と控訴人との販売委託契約締結前のもの(甲八九、甲一〇五)であるから、被控訴人に手数料返還の問題は生じない。

第四  証拠関係

原審記録及び当審記録中の各書証目録及び各証人等目録の記載を引用する。

なお、以下の認定に用いた書証のうち、成立について不知とあるものは、いずれも弁論の全趣旨により、その成立を認める。

第五  当裁判所の判断

一  原判決一〇頁六行目冒頭から一五頁一行目の「認めるのが相当である。」までを引用する。

二  本件教材のうち、英語教材には、被控訴人が誤り若しくは問題があると指摘する二六二箇所中、控訴人も被控訴人の指摘どおりと自認する三八箇所の他には、誤りは認められない(鑑定人江本進の鑑定結果)が、数学教材には、被控訴人が指摘する一三一箇所中、誤った解答・解説・説明がされている箇所が一四(評点B一、G一三、なお、CG一箇所はCと同視)、基本的な説明・解説が不足しているために、自宅学習者の誤解を招きやすい不適切な箇所二三(評点C二二、CG一)、自宅学習者に正確な理解をより一層深めてもらうために、基本的な内容の説明や標注を加筆追加すべき箇所一四(評点D一四、なお、DF二箇所はFと同視)、間違ってはいないが通例の数学的表示とは異なる箇所三〇(評点E三〇、なお、EF一箇所はFと同視)があり、その他は教材どおりでよい箇所又はどちらでもよい箇所である(鑑定人藤澤偉作の鑑定結果)と認められる。また、国語教材には、被控訴人が指摘する七九箇所中、控訴人も被控訴人の指摘どおりと自認する二一箇所の他に、誤りや不十分、不適切な箇所が少なくとも一三箇所あることが認められ、文部省の「高等学校教科用図書検定基準」に照らすと、適性を欠いた教材との評が加えられている(鑑定人鳩貝久延の鑑定結果)ことが認められる。

前示当事者間に争いのない事実と以上認定の事実からすると、読売新聞の前記青木記者がどの程度の裏付け調査をなしたうえ、本件教材について全教科で合計五三八箇所のミスがあったとの心証を抱いたかについては些か疑問が残るが、本件新聞記事は、青木記者の取材に基づき、読売新聞社の責任と判断に基づいて報道したものであり、新聞社としては提供された情報を何らの裏付け調査をなすことなく記事として掲載することは本来許されるものではないうえ、前示認定のとおり、被控訴人は、控訴人に対し、昭和六一年一〇月三〇日付けで、約五三八箇所の瑕疵と思われる部分を発見した旨、至急点検のうえ対応策を示してほしい旨などを内容とする書面を送付しているのであるから、仮に、被控訴人が、右書面を送付したことを含め、本件教材に関する被控訴人と控訴人間の交渉の経緯を青木記者に情報として提供したとしても、取材対象である被控訴人のこの情報提供行為自体をとらえて、不正競争防止法二条一項一一号所定の虚偽の事実を告知し又は流布する行為その他控訴人に対する違法な行為であるということはできない。また、被控訴人が右記者をして、虚偽の記事を掲載せしめたというような事実を認めるに足りる証拠はない。確かに、読売新聞社の記者である植木隆司が被控訴人の社員の植木喜作と親子関係にあると認められる(証人古谷長彦及び同中野章次の各証言)が、右関係が右記事の内容に影響したと認めるに足りる証拠はない。したがって、公表された本件新聞記事を示し、あるいは、本件新聞記事に基づいて記事の内容に沿う供述をする行為をもって、虚偽の事実を告知し又は流布する行為その他控訴人に対する違法な行為であるということはできない。

三  そこで、原判決別表記載の者と控訴人との間の本件教材購入契約が解約に至った原因について検討する。

前示当事者間に争いのない事実及び証拠によると、次の事実が認められる。

1  被控訴人は、昭和六一年七月一日、控訴人との間で、本件教材の販売委託契約を締結して本件教材の訪問販売を行うようになったが、同年一二月ころには、本件教材のもう一つの販売受託会社である株式会社日本進学会と控訴人間の内紛から、本件教材は欠陥教材である等の中傷宣伝がなされ、また、他の教材の販売会社からの販売員の引き抜きが行われて、被控訴人の業務にも大きな支障が生ずるようになり、被控訴人は、控訴人に対し、その善処方を要望するなどをしていたが、これと並行して、本件教材に替えて、別会社の教材に多少の手直しをした程度のものを「大学入試ストレートゼミ」(以下「被控訴人教材」という。)という名称で販売することを計画し、昭和六二年一月二二日、控訴人に対し、本件教材とは別個の教材の販売をする旨を通告した。ただし、本件教材についての控訴人との間の前示販売委託契約は、同年九月一九日まで継続していた(乙八四、証人古谷長彦、同中野章次の各証言)。

2  ところで、本件教材は、アフターケア分を含め四教科で六五万円、二教科でも四四万円又は三九万五〇〇〇円、一教科でも二五万円又は二〇万円と極めて高額のものであるが、被控訴人等の販売受託業者に支払われる販売委託手数料が成約分の教材代金の六五パーセントを占めるものであって、これに控訴人自身の経営に要する人件費その他の諸経営費を勘案すれば、本件教材自体は、そのアフターケア分を含めても、右代金額に応じた合理的な範囲の客観的価値を有するものとは到底認めることができず、このことは、本件教材の販売を行う被控訴人においても知悉していたものと認められる(証人古谷長彦、同中野章次の各証言)。

一方、このような高額な教材の購入を勧められた主として大学受験生を持つ親達は、高額であるだけに、本件教材が他の一般市販の教材よりも抜きんでて優れたものであり、アフターケアも完全に行われ、子供達の受験の成功に大きく寄与するものとの期待感と、本当にそのような価値のある教材であるかの不安のうちにあるが、販売員の面と向かった勧誘により、期待感が不安感に打ち勝って購入を決心するに至るものと推認でき、上記の高率の販売委託手数料を支払っても、販売委託業者に委託して訪問販売の方法が採用されているのは、このような親心を十二分に利用するためであると認められる。

したがって、当該教材に対する不信感を与えるような事情が生ずるとすれば、右のような気持ちで不安感を抑えて敢えて高額な本件教材を購入した契約者や受講者が、本件教材に対する信頼感を傷つけられて、これを継続して使用する意欲を失い、これを返還して、代金の一部でも回収できればと考えることはむしろ当然であると認められ、ましてや、本件新聞記事が全国紙の読売新聞に掲載された後に、後記のとおり、本件教材の購入を勧めた被控訴人の営業員から、その欠陥を述べたてられれば、なおさらのことと認められる。

このような観点からすれば、原判決別表記載の契約者と控訴人との間の本件教材購入契約が解約に至った根本的な原因は、代金額に応じた合理的な範囲の客観的価値を有するものとは到底認められない本件教材を、大学受験生を持つ親心を利用して、多額の販売委託手数料を支払ってでも訪問販売の方法で販売するという販売システム自体に胚胎していたといわなければならず、したがって、解約によって生じた損失は、基本的には、このような販売システムにより利益を得るために提携し合った控訴人及び被控訴人の損失として、その帰責原因の如何により、各々が負担すべきものと解するのが相当である。

3  そこで、原判決別表記載の契約者について、解約の原因を検討する。証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 契約者堀江ゆう子(原判決別表番号1)については、受講者堀江卓也が本件新聞記事を読み、被控訴人営業員山本勝久に電話した後、解約の手続を弁護士菊地一郎に依頼したこと(甲七六、甲一五)

契約者明瀬和俊(同8)については、受講者明瀬敬子が学校内で本件新聞記事が問題になっていると聞き、同人の母親の友人の紹介で解約の手続を菊地弁護士に依頼したこと(乙七六、甲二二)

契約者橋本武次(同10)については、受講者橋本典子が学校内で本件新聞記事が問題になっていると聞き、友人から話を聞いて解約の手続を菊地弁護士に依頼したこと(乙七八、甲二四)

契約者青柳一宇(同13)については、同人が本件新聞記事を読み、受講者青柳憲が利用しにくい教材であるといっていたこともあって、被控訴人に対し解約したい旨電話したところ、一度は断られたが、その後、菊地弁護士を紹介されたので、解約の手続を同弁護士に依頼したこと(甲一三、甲二七、乙八三)

契約者石川栄一(同22)については、前記記事及び役務等を告発した文書が教材とともに送られてきたので、知人を通じ、解約の手続を菊地弁護士に依頼したこと(乙七七、甲三六)

契約者浜崎忠夫(同23)については、受講者浜崎直美の母親が、前記記事を読み解約することを決めたところ、友人から弁護士を紹介されたので、解約の手続を菊地弁護士に依頼したこと(乙八〇、甲三七)

契約者佐藤和子(同24)については、前記記事を知って、受講者佐藤良と相談して、解約の手続を菊地弁護士に依頼したこと(乙七五、甲三八)

契約者斎藤勝己(同27)については、受講者斎藤智昭が学校内で前記記事が問題になっていると聞き、解約の手続を弁護士後藤昌夫に依頼したこと(乙七四、甲四二)

以上の者は、被控訴人教材を購入していないものと認められる。

(二) 契約者牛奥実(同4)については、受講者牛奥敏宏の母親が、当初の被控訴人営業員辻信二の述べていたことと話が違うので、別の被控訴人営業員に対し解約を申し出たところ、同営業員から勧められ、解約の手続を菊地弁護士に依頼したこと(甲七七、甲一八)

契約者吉田三郎(同5)については、本件教材について塾、予備校のようなものと思っていたところ、そうでなかったので被控訴人営業員に対し解約を申し出、同営業員に解約の手続を一任して、同営業員を介して菊地弁護士に依頼したこと(甲一七〇、甲一九)

契約者鈴木晃(同15)については、受講者鈴木隆行の母親が、近所の人から前記記事について聞き、被控訴人営業員手塚の当初の勧誘の仕方にも不信感を持っていたので、同営業員を通じ、解約の手続を菊地弁護士に依頼したこと(甲一四、甲二九)

契約者香川明人(同21)については、受講者香川久人の母親が、本件教材の購入契約の前に営業員のいったことと話が違うので、被控訴人営業員に対し解約を申し出たが取り合ってもらえなかったところ、同営業員の上司から勧められ、解約の手続を菊地弁護士に依頼したこと(甲一三、乙七九、甲三五)

以上の者が、被控訴人の教材を購入したものと認めるに足りる証拠はない。

なお、右の事実に起因し、控訴人において解約に応じて契約者本人又は立替払業者である大信販に対し、解約金の支払いをしたのは、昭和六二年八月末日までであったと認められる。

(三) 契約者藤原正照(同9)については、受講者藤原健一が友人から前記記事について聞いたので、同人の母親は、被控訴人営業員山本勝久に連絡をしたところ、本件教材の購入契約の解約と被控訴人教材の購入を勧められたので、解約の手続を菊地弁護士に依頼し、被控訴人の教材を購入したこと(甲一三、甲二三)

契約者古谷靖昌(同20)については、同人が、前記記事を読み被控訴人に対し電話したところ、被控訴人営業員が来訪し、解約を勧められ、菊地弁護士を紹介されたので、解約の手続を同弁護士に依頼し、被控訴人教材を購入したこと(甲七五、甲一七五、甲三四)

契約者岩崎次助(同25)については、受講者岩崎好徳が友人から前記記事及び解約について聞き、被控訴人営業員篠原広次に連絡し、同営業員の勧めに従って解約の手続を菊地弁護士に依頼し、被控訴人教材を購入したこと(甲一三、甲三九)

契約者遠藤克則(同29)については、本件教材について解約の手続を後藤弁護士に依頼し、被控訴人教材を購入したこと(甲七四の一、甲四四)

契約者土屋勝雄(同33)については、前記記事を親類の者から知らされ、受講者土屋洋子も何箇所か誤りを発見したため、被控訴人営業員篠原広次に対し解約を申し出たところ、同営業員から勧められ、解約の手続を後藤弁護士に依頼し、被控訴人教材を購入したこと(甲七八、甲一七二、乙七三、甲四一)

なお、右の行為に起因し、控訴人において解約に応じて契約者本人又は立替払業者である大信販に対し、解約金の支払いをした当時、控訴人と被控訴人間の本件教材の販売委託契約は、存続中であった。

(四) 契約者平林三長(同28)については、被控訴人営業員篠原広次が来訪し被控訴人の教材の購入を勧誘したので、本件教材について解約の手続を後藤弁護士に依頼し、被控訴人教材を購入したこと(甲七四の一、甲四三)

契約者青木恒(同30)については、本件教材を販売した被控訴人営業員篠原広次が、本件新聞記事を見たことのなかった受講者青木雅弘の母親に対し、本件新聞記事を見せて本件教材は間違いが多いので解約して被控訴人教材を購入することを勧めたので、同営業員の勧めに従って、解約の手続を後藤弁護士に依頼し、被控訴人教材を購入したこと(甲七四の一、甲一七一、甲四五、証人青木弘子の証言)

契約者高田照子(同31)については、受講者高田嘉則の友人が、被控訴人営業員篠原広次に対し解約手続を一任して被控訴人教材を購入していたのを知って、同じようにして、被控訴人教材を購入し、解約の手続を後藤弁護士に依頼したこと(甲七八、甲七九の一、二、甲四六)

契約者岡山博(同32)については、受講者岡山昌功の両親に対し、被控訴人営業員篠原広次が、本件教材は間違いが多いので解約して、被控訴人教材を購入することを勧めたので、同営業員の勧めに従って解約の手続を後藤弁護士に依頼し、被控訴人教材を購入したこと(甲七四の一、甲四七)

契約者菊池宗尚(原判決別表番号34)については、受講者菊池尚久の母親に対し、被控訴人課長中村幸義が、新聞記事を出し、本件教材は間違いが多いので解約して、被控訴人教材を購入することを勧めたので、解約の手続を弁護士に依頼することとし、被控訴人教材を購入したこと(甲八の一、甲九の一、二、甲四八)

なお、菊地宗尚の場合を除き、右の行為に起因し、控訴人において解約に応じて契約者本人又は立替払業者である大信販に対し、解約金の支払いをした当時、控訴人と被控訴人間の本件教材の販売委託契約は、存続中であった。菊地宗尚の場合は、右の行為に起因し、控訴人において解約に応ずることにしたのは、昭和六二年八月中である(甲八の一)と認められる。

(五) 以上の契約者を除く原判決別表記載の各契約者一二名(同表番号2、3、6、7、11、12、14、16ないし19、26)については、右のような個別事情を窺わせる証拠はないが、前示認定の事実から明らかなように、その関与の度合いはさまざまあるにせよ、いずれも本件教材の購入契約の解約に被控訴人の営業員が関与しており、原判決別表記載の各契約者のみならず、その他の契約者も特定の数名の弁護士に支払済契約金の返還を求めるための手続を依頼していること、その解除通知の文面がいずれも酷似していること、その時期も限られた期間に集中していること(甲一五ないし四八、甲一四九ないし一六〇)及び弁論の全趣旨によれば、少なくとも、被控訴人の営業員の行為が本件教材の購入契約の解約の一因となっているものと推認できる。

そして、右の事実に起因し、控訴人において解約に応じて契約者本人又は立替払業者である大信販に対し、解約金の支払いをしたのは、昭和六二年八月末日までであったと認められる。

4  以上の事実を総合すれば、次のようにいうことができる。

(一) 上記3(一)の契約者堀江ゆう子以下八名の場合にあっては、前記新聞記事により、契約者又は受講者が本件教材に対し不信感を抱いたことにもっぱら解約の原因があるというべきである。被控訴人の営業員が弁護士を紹介した事実があったとしても、この事実からは同営業員の行為に起因して解約の意思が決定されたものとは認められず、これを控訴人に対する関係で違法性があるものとまで評価することはできない。

また、右のとおり、解約の原因が被控訴人の営業員の行為に起因すると認められないうえ、右の契約者との解約は、弁護士からの支払額返還請求に対し、控訴人が他への影響を考慮して返還を決定したことが認められる(証人古谷長彦の証言)以上、被控訴人は、本件教材についての販売委託契約に付随する覚書(甲一号証の二)三条二項に基づく販売手数料の返還義務を負うと解することはできず、被控訴人において、控訴人の損失において法律上の原因なく手数料相当額を利得したということはできない。

したがって、これらの契約者について、被控訴人が不法行為上の責任を負うものということはできず、不正競争防止法上の請求の理由のないことは前示のとおりであり、不当利得に基づく請求も理由がない。

(二) 上記3(二)の契約者牛奥実以下四名の場合にあっては、読売新聞の記事等による不信感とともに、被控訴人の営業員のオーバートークあるいは説明不足が本件教材に対する不信感を生じさせた一因となっていることが認められるが、それ以上に被控訴人の営業員において、控訴人に対する関係で違法とまで評価するに足りる行為があったものとは認められない。

したがって、被控訴人は、不法行為上の責任を負う理由はなく、また、不正競争防止法上の責任がないことは前示のとおりであるが、被控訴人の営業員の行為にも起因して解約の意思が決定されたと認められるから、この場合、解約による損失は控訴人と被控訴人とが分担すべきであり、被控訴人が得た手数料相当額を、被控訴人が控訴人の負担においてそのまま利得する法律上の原因はないといわなければならず、被控訴人は悪意の不当利得者というべきである。

右契約者のうち、牛奥実(原判決及び本判決別表番号4)及び吉田三郎(同5)との契約は、いずれも教材代金五二万円で、控訴人と被控訴人間の販売委託契約締結前の昭和六一年六月一日及び同月三〇日に成立しており、被控訴人が訴外株式会社ケイ・アイプロジェクトの下で本件教材の販売をしていた時期のものである(甲九一、甲九二)から、その手数料は成約した教材の代金の六五パーセントとは認められないが、現実に販売活動をした者として、少なくとも教材代金の三五パーセントを取得したものと推認され、その額は、合計三六万四〇〇〇円となる。その余の契約者鈴木(同15)、同香川(同21)については、すでに控訴人が被控訴人に対し支払済みと認められる本判決別表番号15、21記載の手数料欄の各金額の合計七六万五〇〇円(甲一の一ないし三、甲一〇二、甲一〇八、弁論の全趣旨)であり、この合計金額一一二万四五〇〇円につき、不当利得として、被控訴人が控訴人に対し返還する義務を負うというべきである。

(三) 上記3(三)の契約者藤原正照以下五名の場合にあっては、被控訴人の営業員が、契約者や受講者がすでに本件記事のことを知り本件教材に対する疑惑ないし不信感を抱くに至った状態を利用して、本件教材の購入契約の解約を勧め、被控訴人教材を購入せしめたものであって、当時被控訴人と控訴人間の本件教材の販売委託契約は存続中であったのであるから、本件教材に替えて被控訴人教材の購入を勧め、これを購入せしめるに至ったことは、同契約に定められた被控訴人の義務に違反し(甲一の一第八条)、営業行為として許容される範囲を逸脱した違法な行為というべきであり、不法行為として、控訴人に対し、その行為と相当因果関係にある範囲の損害を賠償する責を負うと認めるのが相当である。

そして、右の場合、契約者や受講者がすでに本件記事のことを知り本件教材に対する疑惑ないし不信感を抱くに至った状態にあったこと、控訴人が他への影響を考慮して返還を決定したことをも勘案し、右行為に起因する損害は、控訴人が右契約者らからの解約の申込みに応諾して支払ったと認められる原判決別表番号9、20、25、29、33の本人及び大信販に支払った合計額二七二万七六八五円(甲五八、甲五九、甲六六、甲五三、甲七〇、甲七一の各一、二)の八〇パーセントに当たる二一八万二一四八円と認めるのが相当である。

被控訴人に不正競争防止法上の責任がないことは前示のとおりであり、不当利得に基づく請求により上記以上の金員の支払いを求めることができないことは明らかである。

(四) 上記3(四)の契約者平林三長以下五名の場合には、本件新聞記事を知らない契約者にも、被控訴人の営業員篠原広次ないし被控訴人課長中村幸義が積極的に本件教材の欠陥を言い立てて、被控訴人教材の購入を勧め、これを購入せしめたことが認められ、契約者菊地宗尚の場合には、同人が本件教材を購入したのは日本進学会傘下の大学入試指導センターからであり(甲一二一)、被控訴人が関与したものとは認められないのに、被控訴人課長中村幸義が契約者菊地宅を訪れて解約を勧めて被控訴人教材を購入せしめたのであって、これらの事実を総合して考察すると、右契約者らを解約に至らしめて被控訴人教材を購入させた被控訴人営業員ないし課長の行為は、控訴人に対する関係で許されない違法な行為として、控訴人が右契約者らからの解約の申込みに応諾して支払ったと認められる原判決別表番号28、30、31、32、34の本人及び大信販に支払った合計額二二九万三一七二円(甲七〇、甲七一、甲七二、甲七三の各一、二)は、被控訴人の行為により控訴人が被った損害として、全額これを賠償すべきであるとするのが相当である。

(五) 上記3(五)の契約者出牛敏以下一二名の場合は、前示販売システム自体に胚胎していた解約原因が被控訴人の営業員の行為に起因して実現したものというべきであるから、この場合、解約による損失は控訴人と被控訴人とが分担すべきであり、被控訴人が得た手数料相当額を、被控訴人が控訴人の負担においてそのまま利得する法律上の原因はないといわなければならず、被控訴人は悪意の不当利得者というべきである。これら契約者について、被控訴人に不法行為上の責任を負う原因は本件証拠上認められず、不正競争防止法上の責任がないことは前示のとおりである。

右契約者のうち、出牛敏(受講者出牛稔、本判決別表番号2、なお、教材代金からみて、原判決別表番号3に該当する。)、八木修造(本判決別表番号6)、石野修司(同7)、鈴木昇一(同14)との契約は、いずれも控訴人と被控訴人間の販売委託契約締結前に成立したものであり、被控訴人が訴外株式会社ケイ・アイプロジェクトの下で本件教材の販売をしていた時期のものであり、その代金額は、それぞれ三五万円、五八万五〇〇〇円、三九万五〇〇〇円、三九万五〇〇〇円、合計一七二万五〇〇〇円である(甲八九、甲九三、甲九四、甲一〇一)から、前示(二)の場合と同様に、その手数料として右教材代金の少なくとも三五パーセントを取得したものと推認され、その額は、合計六〇万三七五〇円となる。また、契約者淵野信男(原判決別表番号18)との契約は、訴外株式会社ケイ・アイプロジェクト、大学入試指導センターであり(甲一〇五)、被控訴人が関与したものと認められないから、被控訴人に手数料収入があったものとは認められない。

その余の契約者出牛敏(受講者出牛敏哉、本判決別表番号3、なお、教材代金からみて、原判決別表番号2に該当する。)、井手本義輝(本判決別表11)、小松博己(同12)、松本孝昭(同16)、荒田敏雄(同17)、渡辺衛太郎(同19)、三原文宣(同26)については、すでに控訴人が被控訴人に対し支払済みと認められる手数料は、本判決別表番号3、11、12、16、17、19、26記載の手数料欄の各金額の合計二三二万五〇〇円(甲一の一ないし三、甲九〇、甲九八、甲九九、甲一〇三、甲一〇四、甲一〇六、甲一一三、弁論の全趣旨)と認められる。

したがって、右の六〇万三七五〇円と二三二万五〇〇円の合計金額二九二万四二五〇円につき、不当利得として、被控訴人が控訴人に対し返還する義務を負うというべきである。

5  以上を整理すると、被控訴人は、控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償として、前記4(三)及び(四)の金額合計四四七万五三二〇円及びこれに対する不法行為の後であることが明らかな昭和六二年九月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、また、悪意の不当利得に基づく返還として、前記4(二)及び(五)の金額合計四〇四万八七五〇円及びこれに対する控訴人が解約金の支払いをした後であることが明らかな昭和六二年九月二三日から支払済みまで控訴人が請求する範囲である年五分の割合による利息を支払う義務がある。

したがって、右の限度で控訴人の被控訴人に対する不法行為及び不当利得に基づく請求は理由があるが、不法行為及び不当利得の請求のうちこれを超える部分並びに不正競争防止法に基づく控訴人の請求は、理由がない。

四  以上のとおりであるから、本件控訴及び当審における追加的予備的請求に基づき、これと一部結論を異にする原判決を変更し、原審及び当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

別表

<省略>

平成三年(ネ)第二八号

更正決定

控訴人 株式会社 育英

被控訴人 株式会社 現役会

右当事者間の平成三年(ネ)第二八号不正競争行為差止等請求控訴事件につき、平成七年一二月二〇日当裁判所が言い渡した判決に明白な誤謬があるので、職権により次のとおり決定する。

主文

右判決添付の別表のうち、番号4中、「英・国」とあるのを「英・数・国」と、「395,000」とあるのを「520,000」と、「256,750」とあるのを「338,800」とそれぞれ訂正し、合計欄を削除する。

平成八年一月一九日

東京高等裁判所第一三民事部

裁判長裁判官 牧野利秋

裁判官 押切瞳

裁判官 芝田俊文

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